▪️本を読んでいない
今から9年ほど前のことですが、私はある大規模なセミナーに2週間ほど参加する機会がありました。参加者は約100名で、全員がホテルに連続して宿泊する形式でした。このような研修は高額なため、参加者は全国の大企業で部長や役員を務める方々ばかりでした。
セミナーは10人ほどの小グループに分かれ、グループセッションや約50名規模のクラスセッションを行い、午前と午後で1日2科目ずつ受講します。
このプログラムはアメリカ型のビジネススクールの方式で進められており、事前の予習がとても重要です。課題は事前に配られ、それを理解して自分なりの答えを用意し、クラスディスカッションに臨みます。そのため、テキストを事前に読み込み、当日のクラスセッションに入る前にグループセッションで意見を検証することが求められます。
テキストの中には、新聞記事や雑誌をコピーした資料が大量に含まれていました。こうした資料を前日の夜遅くまで読み込む必要があり、部屋での予習は大変でした。

グループディスカッションでは、科目ごとのテーマに沿って、資料をもとに議論が進みます。テーマは経営学、経済学、リスクマネジメントなどさまざまで、各参加者は自分の経験も交えながら話します。
設問には内容理解を問うものと、意見を問うものがあり、特に意見については「正解」がありません。つまり、それぞれの考えをディスカッションで出し合い、学び合うのです。
このように高いレベルかつ高額な研修ですので、グループディスカッションでは人数も限られており、自由に意見が交換しやすく活発に議論できます。しかし、こうした一般化された経済や経営の話になると、原理原則や経済、経営の基礎的な話ができなければ議論に深く参加できません。私はこの中で強く感じたのが、多くの参加者が、仕事以外の勉強をあまりしていないということでした。
たとえば、自分の会社については10分でも20分でも熱心に話せるのに、一般的な経営学や経済理論になると全く分からないという様子でした。社内についてはよく学び、社内の力関係や人間関係をうまくこなしていても、一歩外に出れば、経済理論や経営の原理原則といった知識を元にした実務の世界が広がっています。基礎となる知識がなければ、実務の現場でも対応することは難しいと私は考えています。

▪️原理原則の大切さ
ある大学の教授も「原理原則は学生には役立たないが、実務経験を積むほど大切だと感じる」と話していました。私自身、これまでの経験から経営や会計、歴史、異文化研究、心理学、進化論などを重視してきました。これらの原理原則が土台となって、自分自身で状況を分析し、最適な判断を選ぶことができたからです。
私はドラッカーやジム・コリンズなどの経営書や、半藤一利氏による日本近代史の分析、中根千枝氏、鈴木孝夫氏ら日本の社会学書も多く読んできました。しかし、とくに役立ったと感じるのは異文化コミュニケーションの知識です。異文化コミュニケーションを学んで一番役立ったのは、他国の文化ではなく、日本という「自国」のことでした。
日本を「外国」として俯瞰し、つまりメタレベルで見ることで、自分たちが日常的に行っている行動が、他の文化圏の人々からどのように見えるのか、世界の中の日本がどのように異なるのかを理解できるようになりました。
この経験によって、アメリカやヨーロッパの経済、経営学者の本を読む際にも、文化の違いを意識して読むことで、より深く内容を理解できるようになりました。ただ欧米の有名学者が書いた本を読んで「なるほど」とそのまま受け入れるのではなく、「日本の場合は認識や考え方が違うので、そのままは当てはまらない」と自分で判断し、活かせる部分・そうでない部分を見分けられるようになったのです。

▪️社内政治は一時的なもの
自社についてよく学び、社内政治に精通する人は多くいますが、普遍的な一般論について勉強していないのはとてももったいないことだと感じます。社内政治だけで昇進することもできるかもしれません。組織には独自のパワーバランスがあり、そこでうまく立ち回る人もいるでしょう。
しかし、やはり基礎的な知識や原理原則を身につけていれば、どんな環境でも応用が効き、何でもこなすことができるのです。例えば、私は今コンサルタントとして企業の運営に関わっていますが、クライアントを俯瞰して見ながら、原理原則に基づいて課題を発見し、すぐに方向性を示すことができます。

福沢諭吉氏や吉田松陰氏も、学ぶことの大切さを説いています。福沢諭吉は「学問のススメ」の中で、「今の生活に不満があるのであれば、会計や法律などの実用的な学問を学びなさい」と書いています。また、吉田松陰は「学びは人の喜びであり、それを奪うことは誰にもできない」と述べています。
社内政治に詳しくなっても、それは会社に在籍している間だけしか通用しません。一度組織を離れれば、その肩書きはほとんど意味を持ちません。私が会社を辞めて独立コンサルタントになっても、仕事ができているのは幅広い勉強のおかげです。
最低限でも、これだけは読んでおいてほしいという本はあります。今からでも学ぶことで、会社を離れても働いていくことができます。ぜひ、これからでも少しずつ勉強を続けて、成功していってほしいと願っています。