プロジェクト、とくに日本でのプロジェクト活動がうまくいかなくなる原因は、ほぼ一つしかないと私は考えています。それは、メンバー同士の強い信頼関係がなくなることです。
プロジェクトでは、形として見えるものは何もありません。あるのは、メンバー同士の信頼だけだと私は思っています。そのため、小さな行動でも、その信頼関係を壊してしまうと、プロジェクト全体が崩壊することがあります。

私が経験した実例をご紹介します。かつて、海外の本社と日本の子会社の間でシステム導入プロジェクトがあり、私は日本側の責任者を務めていました。海外とのやりとりは時差があり、Eメール中心で進みました。たとえば、私たちが日中に送ったメールが、翌朝に返信されることもしばしばありました。
このプロジェクト中、ある社員Aが海外本社と直接メールでやりとりを行い、その内容を他のメンバーには共有していませんでした。社員Aは単独でタスクを進めていたのです。
しかし、その他のプロジェクトメンバーは、タスクが終わっていないと思い込んでいました。その結果、別の社員Bが「こうやってはどうでしょうか」と会議で新しい資料を提案しましたが、Aの水面下での動きとかみ合わず、Bの作った詳細な資料は結局使われませんでした。
当然、気分を害するのは社員Bです。日本のプロジェクトは担当範囲が曖昧なことが多く、困っていると思うと、誰かが自主的に助けることもよくあります。社員Bも、「連携の方法が見つからず、メンバーが困っている」と考え、丁寧に資料まで作ってくれたのです。しかし、社員BにはAの海外とのやりとりは知らされておらず、モチベーションも下がり、Aへの信頼関係も壊れてしまいました。

こうした問題は、英語が堪能な社員がいると、特に発生しやすい傾向があります。海外担当と個人的にやりとりするのは悪いことではありませんが、やはりプロジェクト内でしっかり情報を共有しないと、無駄な労力が増えてしまいます。
社員Aも海外担当者と仲が良く、気軽に連絡を取った結果、このような連携の問題が生じてしまいました。ほんの些細なことでメンバーの気分が悪くなり、それがきっかけで全体の雰囲気も悪くなっていくのです。
実際、このような情報共有の不足は意外とよく起こります。その結果、「やらなくてもよかった」「間違った方法だった」「すでに他の関係者から不要と言われていた」といった無駄が発生しやすくなります。

こうした事態を防ぐため、当時はまだMicrosoft Teamsなどのチャットツールが普及していなかったため、グループアドレスを作り、必ずそこにメールのCCを入れるというルールを設けました。これで情報共有を徹底するようにしました。今であれば、Microsoft Teamsのチャンネルを作成し、メンバーを登録することで、情報がきちんと伝わるようになります。
しかし、「自信がない情報」や「もしかしたら違うかもしれない情報」を、正式なチャンネルで発信するのは避ける人もいます。こうしたとき、個人同士のチャットでやりとりしてしまいがちです。それ自体は悪いことではありませんが、最終的な結果や重要な情報は、必ず公式なチャンネルで共有することが大切です。あるいは、プロジェクト会議でしっかり報告することも重要です。

私のプロジェクト企画は、いつもPMBOK(プロジェクトマネジメント知識体系ガイド)に従って進めています。具体的には、クオリティ、コスト、タイムライン、リスクプラン、ヒューマンリソース、インテグレーション(統合管理)、ステークホルダー、スコープ(範囲)、調達、コミュニケーションなどの要素を、1つずつ確認しながらプロジェクトを設計します。
特に気を使うのが、コミュニケーションプランです。小グループごとの会議から始まり、その内容が順にプロジェクト進捗会議へと伝達され、さらにプロジェクト進捗会議で議論されたことがステアリングコミッティーや主要ユーザーにも共有される、このような情報の流れをきちんと設計することが不可欠です。
ぜひ、プロジェクトはコミュニケーションプランが最も重要であると言うことについて再認識いただければと思います。