私が敬愛する吉田兼好は、その著書『徒然草』の中で、良き人とは「なぜ」を考える人だと言っています。物事には必ず「なぜそうなるのか」という理由があるのです。このような態度で一つの道を極めた人は、哲学する心を持てるようになると兼好は説きます。たとえば、包丁職人の場合でも、一つの道を「なぜ」と問い続けながら追求することで、物事を深く考えることができるようになるのです。

今こそ、「なぜ」という問いについて、一度立ち止まって考えてみてほしいと思います。たとえば、「なぜ自分は毎日データ入力をしているのか」「なぜこんな会議に出ているのか」「なぜいつも仕事をしているのか」「なぜ自分は生きているのか」といったようにです。このように、日々「なぜ」と問い続けることで、哲学する心が芽生えてくるのだと思います。

私が「徒然草」を思い出したのは、最近サイモン・シネック氏の “Start with Why” を久しぶりに読んでいるからです。サイモン・シネック氏は、ゴールデンサークルという考え方を提唱し、「なぜAppleがビジネスで成功したのか」を説明しています。消費者は、価格や機能ではなく、その商品を持ちたいと思う気持ちがかきたてられることが成功につながったのです。
なぜ自分たちがその商品を販売しているのか、その理由を一貫した哲学として持ち、ビジネスを続けてきた結果だと語っています。
私たちは日々、習慣やルーティンに流されて、何も考えずに行動してしまうことが多いのではないでしょうか。「なぜ(Why)」それをするのか、何のためにするのかを考えず、つい「どうやってやるか(How)」の方に気を取られてしまいます。
サイモン・シネック氏によれば、「どうやってやればよいかわからないのは、その理由(Why)がわかっていないからだ」と言います。つまり、「What(行動の結果)はWhyが明確でなければ生まれない。Whyがわからなければ、Howもわからない」ということなのです。

この言葉は非常に重みがあります。
私自身、壁にぶつかったとき「いったいこれからどうすればいいのだろう」と悩むことがあります。
そのとき、「なぜ自分は今悩んでいるのか」を考えます。さらに、「自分は何のために前へ進もうとしているのだろう」と再び立ち止まり考えるのです。そこには必ず理由があります。そして、その理由の中には、自分にとっての価値や生きる目的、自分が最も大切にしたいものがあるはずです。
私は、シネック氏が脳の構造と比較しながら説明するゴールデンサークル理論にとても共感しています。人間の脳には、感情のみをつかさどる中心部があり、その外側に感情を言葉として表現する機能、さらに一番外側には言葉を発したり聞いたりする機能があります。
つまり、中心が「なぜ(Why)」、次が「どうやって(How)」、そして最後が「何をしたか(What)」です。
Whyから始まり、Howで言語化され、最終的にWhatとして行動の結果が現れるというのです。

誰かに何かを説明するとき、私は「なぜ」をできるだけ丁寧に説明するように心がけています。
なぜなら、「なぜ」を伝えることで、相手は自身で方法(How)を見つけ出し、結果(What)を得ることができるからです。
これは部下を指導するときも同じです。表面的なWhatだけを教えても、それは長続きしませんし、応用も利きません。
Howだけを伝えても不十分です。Whyをしっかり伝えることで、相手は自分で工夫しHowを選び取り、結果(What)につなげることができるのです。
職場では、このWhyを丁寧に伝える人は非常に少ないかもしれません。しかし、自分自身で「なぜ」と考えることが大切です。そうすることで、結果(What)を出し続けることができるのです。さらに、その先には「哲学する心」を持てるようになると思います。