月次決算や会計の神様と言われていたのが元信越化学にいらっしゃった金子児先生です。信越化学を引退後は、日本CFO協会最高顧問や金融監督庁の顧問歴任されていらっしゃいましたが、残念ながら2013年なくなられました。
私がちょうど20代の頃、経理部長の代わりに出席した講演会で、金子先生の話を聞く機会がありました。もうすでにずいぶん前のことですが、その時にお聞きした内容は非常に印象的で、その後の経理の仕事に活かしていました。
金子先生は、月次決算で最も重要な事は、迅速性と簡便性であるとおっしゃいました。それは、月次決算の目的を理解すれば納得できます。月次決算は、様々な法令から要求された決算でもありません。会社が任意に行っているいわゆる「経営会計」と呼ばれるものです。
その「経営会計」が必要な理由は、その月の売上高、収益性、といったことを経営陣がいち早く知りたい、ということからです。つまり、うまくいってるのか、うまくいってないのか、予算通りなのか、といったことを経営陣が把握することが目的です。
ですから、1円単位で細かく数字を合わせる必要もないのです。無論、年度決算の場合は、税務申告や株主へ提示する有価証券報告書等あるので、そこには、ある程度の正確性が求められます。
一方で、スピードも求められます。経営陣は、その月の会社の成績か気になり、早く知りたいし、早く知ることで直ぐにアクションを実行できるのです。月次決算の作成スピードを早くするためには、簡便的な方法を用いることです。
例えば、減価償却費について毎月細かく計算する必要はなく、おおよそで良いのです。投資が比較的、計画した通りに実施されるような会社では、減価償却費は予算で決められているものをそのまま計上しても実際とはあまり差異がないこともあります。投資金額が事前に計画されていて、月別年度予算にも組み込まれていたら、月ズレがある時だけ、その部分を調整します。
実際に私が経験した機械メーカーでは、月次決算の減価償却費は予算で計上し、実際と差異がある場合は、本社勘定で受けることで、標準原価で動いている工場決算の管理をスムーズにしていました。また、人件費では、翌月に支払われる給与を未払給与として計上します。これも、見積もりや予算で計上して、実際に差異があれば、翌月に修正するのです。
百万円単位で決算書を役員会に報告しているような会社では、2百万から3百万円程度の誤差は、迅速性を重視する月次決算では許容範囲内です。要は、その月の会社の成績が良いのか悪いのか、見込み通りなのか、といったことを翌月初めにすぐにチェックできれば良いのです。
こうしたそもそもの目的は、あまり先輩や上司から直に教えられる機会は少ないのではないでしょうか。
月次決算の目的をよく理解していないジュニアレベルの社員は、月次決算の締め切りが来ると、1円でも合わないと、目が血走って、非常にナーバスになります。
そもそも、経理に配属されるような社員は、真面目な社員が多いので、なおさらのことプレッシャーに感じることでしょう。3000円の差を合わせるのに、半日かかり決算が遅れてしまうといったことはあり得ません。月次決算の締め切りのタイトな日程の中では3000円は一旦無視して先に進めるべきです。そして、決算が決まった後で、勘定残高を取引と照合し、エラーや差異を修正していけば良いのです。
私がまだ新入社員の頃、工場の原価計算のある係長は、ベテランの方で工場の現場から資料が期限通りに上がってこないことも想定し、間に合わない場合は、おおよそ推定で帳簿を締めていたそうでです。
そして推定で締め切った数字と実際が違っていれば翌月に修正するらしいのです。その際は許容範囲内のわずかなもので、正常な事業が運営されているのであれば、大きな差が計画値や予算と出るはずがありません。月次決算の目的である迅速性、簡便性に着目して、その目的に沿う方法で行うことです。そして、真面目な経理担当者のプレッシャーを和らげてあげてください。