生命保険や損害保険のコマーシャルは、午前中に流されるのを多く見かけます。私が思うに、それらは、家庭の主婦に向けたものでしょう。家庭を守る主婦は、リスクに対して非常に敏感です。子供を守る、家庭を守る、そうした女性の心理をついて、午前中にコマーシャルを流すことで、保険に対してより関心を持ってもらおうとするものではないでしょうか。入院、怪我、病気、事故、介護など心配ごとは尽きませんが、それらをいっそう煽ることで保険に対する関心を集めるでしょう。
こうしてみると、そもそも、人々の危機を煽ることで、ビジネスが成り立つものが多くあると思います。
保険もそうですが、ネットワークの脅威やリスクもあります。こうしたネットワークの脅威やリスクを大きくネットやメディアで報じることによって、それに便乗したIT企業は、新しい仕組みや、ハードウェアを販売することができます。ニュースやテレビ報道も悲惨な事件や災害、経済的困窮、増税などを放映することで視聴率を上げるのです。
そして、もう一つ違った側面があります。それは、情報を出す側の心理です。
私たちが、会社組織で上層部へ報告するときに、「ひょっとすると、こういう危険もあるかもしれない」ということを報告したことがあるのではありませんか。なぜ起こる確率が低いものをわざわざ報告するのでしょう。
それは、万が一失敗したときの心理が働いているのではないでしょうか。
最悪の事態を事前に報告しておくことで、もしそれより少しでも良くなれば、「あぁよかったね、そんなことが起こらなくて」ということになります。反対に、最悪の事態を報告していない場合、事が起こってしまうと集中して非難を浴びてしまうのです。
こうした、非難を少しでも緩和するためには、事前に最悪の状況を報告しておくことです。たとえ、起こりそうもないとその時に思っていたとしても、最悪のシナリオケースや、リスクを周りにアピールしておくことで、自分自身を守ることができます。
情報を発信する側の心理を想像しながら、もう一度まわりを見ると、リスクを強調したり、危険を強調することによって、自分を守ろうとしている人たちや、それによって、便乗して何か売り込もうとしている人たちもたくさんいるということに気がつきます。毎日を無意識に生きているとこうしたことになかなか気がつきません。
たとえば、台風の進路予想も、最悪の進路を報告しておけば、万が一、台風がその進路をそれてしまっても、最悪の事態を想定していた人たちにとっては、「台風が来なくてよかったね」「よかった」ということになるわけです。
一方、これが、進路を最悪の進路ではなく、「直撃しない進路」にしておくと、もし、実際に最悪の進路で台風が上陸してしまって大損害を日本列島にもたらした場合、天気予報士はひどく非難されるのです。ですから、情報を読み取る側としては、報告側の心理も読み取ることです。
表面上の情報だけではなく、こうした、発信側の心理や、受け手がどう反応するか、といったことを想像しながら情報を受け止めることです。とにかく、テレビやメディアは、視聴者や読者たちを煽ることや、危険や災害を大きく報道することによって、視聴率や部数を伸ばすことができます。そして世の中の仕組みを心に留めておくことです。決して惑わされないでください。